
学校教諭、幼児教室講師、そしてご自身も私立小学校の卒業生であり、2人のお嬢様が小学校受験を経験された元お受験ママという経歴をお持ちのミサミサ先生。なぜ個人レッスンのアトリエを始められたのか?個人のお教室とどうつきあえばいいのか?お受験における上手な個人レッスンの使い方について、お話を伺いました。
●お受験で傷ついてはいけない
●入れる子供に育てるのではなく、どういう子供に育てたいのか
お受験で傷ついてはいけない
― 単刀直入に伺います。なぜ個人レッスンを始められたのですか?
「小学校受験に挑戦されている皆さんの手助けをしたいと思ったからです。大きな幼児教室では、志望校別の対策クラスを設けて、たくさんのお子さまを受け入れています。
そうなると、教わる側としても授業についていかなければならなくなるんです。そのために、どうしても(他のお子様との)比較・競争となり、ストレスが生じるお子さまも出てきます。
そういう子たちの気持ちを軽くできるのが個人レッスンではないかと思ったからです。」
― 授業についていけないお子さんが出てくるということでしょうか?
「ついていけないというより・・・。
多くの対策クラスでは、どんな子もある程度は仕上がる法則を教え込む指導法をされていると思います。
これだと、『こう書く・こう塗る・こう作る』と指導されることが、いつの間にか『こう書かなければならない・こう塗らなければならない・こう作らなければならない』という風に(教わる側の意識)が変わっていって、お母さまもお子さまもがんじがらめになってしまう場合もある。
とても丁寧に絵に取り組むお子さまなのに、制限時間内に画用紙いっぱいに絵を描き上げることができないからと言って『作業が遅い子』『仕上げる力のない子』とマイナスの評価を受けてしまうこともあって。
教えられたとおりの絵を描かせようと一生懸命になるあまりに、わが子を叱るようになってしまったとおっしゃるお母さまも、実際にいらっしゃいました。
たしかに、(入試)直前では(課題を)時間内に終わらせようとする気持ちは必要です。でも、あまり早い段階から急かせてしまうと、イキイキとした絵を描けなくなってしまう恐れがあります。
こうなってしまうと、お子さまが絵を描くことを嫌いになってしまうんです・・・。」
合格させたいと子供のことを思うほど子供を追い詰めてしまうのでは、親子関係にもヒビが入りそうです。良かれと思って始めたことが、わが子の心を閉ざす結果になるなんて、親としてこれほど辛いことはありません。
「難関校と言われる小学校の入試ほど、とても良い切り口で子供の総合的な能力を見ようとしています。そのような学校を目指して準備していくクラスでは、たとえ時間内に(絵や工作が)完成しなかったとしても、講師の予想もつかなかったようなチャレンジをした子、途中のプランニングが良い子、お話が上手で心が豊かな子、そういう子の個性を大切にしたほうがいいと、私は感じているんです。
でも、模擬試験(のような一定の基準を設けた減点法で)の評価だけでお母さまがお子さまを見てしまうと、元々の想像力がある子、個性のある子ほどつぶしてしまうことになりかねないんですよね。」
「幼いお子さまがお教室に通ってくることだけでも、普通に考えたらすごいことなんです。褒めてください。
叩かれて這い上がれる子供はそんなにはいません。そこにいるだけで頑張っているんだから、褒めてあげなければ(子供はつぶれてしまう)。模擬試験の結果や、講師の評価に一喜一憂しないでください。
合格する子と合格しない子がいるお受験で、どうしても合格を目指して進んでいくのなら、私は絶対に傷ついてはならないと思っています。お子さまもお母さまも、お受験のために傷つかないでほしいんです。
私はむしろ、お受験を通して成長してほしいんです。」
― 第三者の目を必要以上に気にするようになって、身も心もボロボロになってしまってはいけないということですね。 それは母親もですか?
「『~じゃないといけない』というお母さまにはならないで、と思うんです。
例えばですが、お試験中にお弁当を食べる時間がある学校がありますよね。お母さまからよく質問されるのは、小さなナプキンじゃなきゃダメなんですか?のような、(具体的な持ち物に対して)“これじゃなきゃいけないんですか?”と言ったことです。
でも、よく考えてください。大切なことはひとつ。『自分で取り扱えること』。ナプキンは大きくても自分でたためればいいんです。ナプキンが小さくすぎてこぼしてしまうより、ちょうどいい大きさにたためるようにした方がいい。お母さまのきめ細やかな愛情があれば気づくこと、乗り切れることがいっぱいあることを、『こうじゃないといけない』と思い込むことで忘れないでいてほしいと思います。」
ご家庭と併走することができるのが個人レッスン
― 個人レッスンでは、ストレスはどうですか?
「10人いる授業であれば、1人のお子さまに講師が声をかけてあげられるのは1時間に2、3言くらいではないでしょうか。私は一言で目を輝かせられるような声掛けをしたいと心がけていました。
私たちが一言を言い放つことで傷つくかもしれないからこそ、かける言葉は大切だなって思うし、自主的に何枚も何枚も書いてきてくれるお子さまがいれば、何枚でも(良いところを見つけて)コメントしてあげて、むきあいたいと思っていました。
でも、(何人も何クラスもいる)お教室では(講師も指導法をそろえなければならないので)難しいんです。
個人レッスンでは、目の前にいるお子さまとお母さまのことだけ考えて指導にあたっています。
何が好き?何が得意?どこの学校に行きたい?によって絵画や制作の場合は到達点が違ってくるんですが、個性も家庭も全部違うので、一人一人に掛ける言葉は変わってきますよね。」
― 授業についていけないというストレスはなさそうですね。
一人ひとりに応じたカリキュラムでレッスンしていただけるのですか?
「そうですね。たとえ(他の子と同じ内容を)準備していたとしても、いざ目の前のお子さまと喋っていると、結果的に(内容が)変わってしまうんですよ。
幼児教室には完成したノウハウと豊富なデータがあります。個人のお教室にあるのは、講師自身が経験で蓄積した勘です。お子さまによって(伸ばす部分や教える部分を考えた)内容にその都度変えていけるので、その子の個性を穏やかに伸ばしていけるかな、とは感じています。
志望校を考える時にも、お子さまの個性にあった学校をご両親と一緒に考えて、(合格に)近づけていくことができるのは、個人の(お教室の)魅力でしょうね」
― なるほど。お受験の絵画は、それぞれの学校別に合格点とされる絵があって、そのような絵を描けるように指導して、近づけていただくものかと思っていました。しかし、大切なのは個性。自分らしさを表現できるようになることで、オンリーワンの存在をアピールできるようになるんですね。
ところでミサミサ先生、志望校の相談にも応じてくださるのですか?
お子さまに本当に合う志望校は、(その子の性格を)よく知っているご両親がきっと見つけてあげられるはず。
私は、お子さまの個性やがんばりを絵と工作の方面から支えていって、本当にその子に一番いい小学校が見つかる手助けをしたいなぁ、と願うんですよね」
入れる子供に育てるのでなく、どういう子どもに育てたいのか
「そうなのかな~(笑)!
独身で教師をしていた頃は、お姉さん先生なので自分の価値観と体験で(生徒に)話すことができました。そこに家族の視点は背負っていません。でも、子育てを経験した後は、そういうことを簡単に言えなくなりました。
子育てって、生きていくっていうことだから、迷いもあるし、一度決心しても翌日には変わるかもしれない。
(人生設計に関しては)代々受け継がれている家族の思想も背負っている。お母さまはこう思っていても、お子さまは違うかもしれない。いろんな糸(意図)が組み合わさっている状態だと、自分が(母親を)経験して初めて気がついたんです。
小学校受験が終わった後も、お子さまとご両親の人生は続いていく。合格のために、(子供に)何をしてもいいというのは子育てではないんですよね。
合格することがゴールではなく、子供をどういう人間に育てたいのかを見据えて、絡み合った糸をほぐしながら、いい距離感を保ちながら、(お母さま、お子さま、アトリエ ニョッキの)3本の平行線で歩いていけたら、うまく(試験対策を)やっていけるんじゃないかと思いますね。
小学校受験って、お父さま・お母さま・お子さまが(合格という)一つの目標に向かって、家族みんなで人生を切り開いていく貴重な時期だと思うんです。ご両親も、親としての自分自身を見直すきっかけ、もしくは親として成長していく過程だと思っていただければ、家族にとって実りある時間になるんじゃないかな。そのために、私はお子さまに絵や工作の方面から寄り添って、お手伝いをしたいなぁ。」
実際に、シャボン玉の絵をテーマにした「小学校受験のための絵画・制作クラス」のレッスンを拝見いたしました。
シャボン玉の色を何色で書くかという問いに、黒?水色?と答えていたお子さまでしたが、シャボン玉で遊んだ時のこと、シャボン玉の作り方などミサミサ先生との雑談が弾むうちに、黄色、緑色と多彩な答えが出始め、最後には1つの玉が七色のシャボン玉を見事に描き上げていました。経験に基づいて、自分にしか描けない絵を描いたお子さまの目は活き活きと輝いて、お受験という苛酷なイメージからはかけ離れたレッスンでした。
小学校受験を考える時、多くのご家庭にとって大きな幼児教室は最適の入り口かもしれません。その中で、もしも大人数に向けた指導法や、模擬試験、対策クラスとどんどん追加されていくスピードに不安を感じた時や、心が行き詰って誰かに悩みを聞いてほしくなった時には、個人レッスンの門をたたいてみてはいかがでしょうか?
取材・文/2460194(演出家・2児の親)